宮沢賢治の童話は、ふしぎで楽しいだけではなく、「生きること」や「人とのつながり」について深く考えさせられる物語がたくさんあります。小学5年生・6年生になると、おもしろいと感じるだけではなく、想像力や感情を読み取る力がぐんぐんと育ってきます。そんな時期にこそ読んでほしい、宮沢賢治の作品を5つ紹介します。
やまなし
物語のはじまりは、五月の川の底。カニの兄弟が「クラムボンは笑ったよ」と話しながら、泡を出して遊んでいました。そこへ突然、魚をねらう「かわせみ」という鳥が水に飛び込んできて、魚をつかまえてしまいました。カニの兄弟は、川の中には楽しいことだけではなく、危険もあることを知りました。
十二月になると、川の水は冷たくなり、魚の姿も見えず川の底は静かになりました。カニの兄弟が泡の大きさをくらべて遊んでいたとき、「やまなし」の実がトブンと音を立てて落ちてきました。カニの兄弟はびっくりしましたが、やまなしのいい匂いにうれしくなりました。
このお話は、自然の中で生きることの楽しさとこわさを教えてくれます。川の中のようすがとてもきれいに書かれていて、読んでいるとまるで水の中にいるみたいな気持ちになります。季節のうつりかわりや、命の大切さを感じられる作品です。
銀河鉄道の夜
ジョバンニは病気のお母さんを支えるため、幼いながらも一生懸命に働いていました。銀河のお祭の夜、彼は丘の上で夜空を見上げた瞬間、まばゆい光に包まれ、気づけば「銀河鉄道」という不思議な列車に乗っていました。そこには親友カムパネルラもいて、ふたりは幻想的な旅へと出発します。
列車は星の世界を走り、いろいろな人が乗ってきました。ある人は亡くなった子どもを思い出していたり、ある人は自分の命を人のために使った話を聞かせてくれます。ジョバンニはその話を聞きながら、「ほんとうの幸せってなんだろう?」と考えます。
旅が終わりに近づくころ、カムパネルラの姿が消えてしまいます。ジョバンニはひとり現実の世界で目を覚ましたとき、川辺にいた人たちから、カムパネルラが川で人を助けようとして亡くなったことを知らされました。
このお話は、友だちの大切さや、人のために生きることの意味を教えてくれます。星や列車のきらきらした世界と、ちょっとせつない気持ちが心に残る作品です。
注文の多い料理店
都会からやってきたふたりの男は、山でけものを狩ろうとしていました。しかし、けものは見つからず、道にまよってしまいます。おなかがすいたふたりは、山の中で「西洋料理店 山猫軒(やまねこけん)」というレストランを見つけました。
お店の扉には「注文の多い料理店」と書かれており、扉を進むごとに「髪をとかしてください」「鉄砲をおいてください」「クリームをぬってください」など、いろいろな注文が現れます。
ふたりは指示のとおりにしていきますが、やがて気づきました。じつはこのレストラン、人間を料理にして食べようとしていたのです。ふたりはあぶないところで助かり、山をおりていきました。
このお話は、おもしろいだけではなく、少しこわいところもあります。自分で考えることの大切さを考えるきっかけになる作品です。
セロ弾きのゴーシュ
ゴーシュは、町の楽団でセロという楽器をひいている男の人です。しかし、彼はうまくひくことができず、いつも指揮者におこられています。ゴーシュはくやしくて、家でひとりで練習をがんばります。
ある夜、ねこがやってきて、子ねこに音楽を聞かせたいのでセロをひいてほしいと言いました。ゴーシュはびっくりしましたが、子ねこのためにセロをひいてあげます。すると、次の日はカッコウ、また次の日はたぬき、さいごには野ねずみの親子がやってきました。それぞれの動物が、ゴーシュの演奏にいろいろなことを言います。
ゴーシュは、動物たちとのふれあいを通して、少しずつ演奏がうまくなっていきます。そして、楽団の演奏会ではすばらしいセロをひき、みんなにほめられました。
このお話は、「がんばることの大切さ」や「人との関わりが自分を成長させること」を教えてくれます。ゴーシュは、最初はうまくできなくても、あきらめずに努力することで、すてきな音楽をひけるようになります。
どんぐりと山猫
ある日、主人公の一郎くんのところに、ふしぎなハガキがとどきます。それは山猫からの招待状で、「裁判をするから来てください」と書いてあります。しかも、ハガキの文字は金色に光っていて、なんだかとてもふしぎです。
一郎くんは、ハガキのとおりに山の中へと出かけていきます。道の途中では、ふしぎな声が聞こえたり、木の葉が話しかけてきました。ようやく山猫の家に着くと、そこにはたくさんのどんぐりたちが集まっていて、「だれが一番えらいか」を決める裁判が始まりました。
どんぐりたちは、みんな「自分が一番丸くて立派だ」と言い、けんかになってしまいます。山猫は困りはててしまい、一郎くんに「どうしたらいいか決めてほしい」と相談します。一郎くんはどんぐりたちに、「みんなちがって、みんないい。えらいとか決めなくてもいい」というような考えを伝えます。すると、どんぐりたちは納得してけんかをやめました。
さいごに山猫は一郎くんにお礼を言って、ふしぎな音楽を聞かせてくれます。そして、一郎くんは楽しい気持ちで家に帰っていきました。
このお話では、一郎くんは、すぐに答えを出すのではなく、じっくり考えて自分なりの答えを見つけようとします。「ものごとの見方はひとつじゃない」ということや、「人の話をよく聞いて、自分の考えを持つことの大切さ」が描かれてる作品です。
まとめ
宮沢賢治の童話は、ふしぎで楽しく、読んだあとに「これってどういう意味だったんだろう?」と考えたくなるお話ばかりです。自然のうつろいや人のやさしさ、音楽や星の世界などが美しく描かれ、読むたびに新しい発見があります。小学生にもおすすめの本です。